Riberal Days
準備は完璧だけどとにかく不安で迎えた旅行初日
2008年6月に知的障がい者5名と健常者2名で事業活動を開始したリベラル。
リベラルの親会社では社員旅行があるのに、
リベラルには社員旅行がありません。
「知的障がい者のみんなにも色々な経験をしてもらいたい」
2009年11月リベラルとしてはじめての社員旅行を企画しました。
「みんなを社員旅行に連れていきたい!」
「みんなの喜ぶ顔が見たい!」
「みんなに楽しんでもらいたい!」
健常者の強い気持ちにより社員旅行を実施する運びとなりましたが、
いざ準備を進めていくうちに、知的障がい者社員の仕事ぶりは理解しているけど、
プライベートのことはよくわからないことに健常者は不安を抱き始めました。
彼らの事をよく見てきたと思っていたけれど、
彼らのプライベートは正直詳しくわからないのが実情です。
そこで、毎年社員旅行を実施している
江戸川区内の支援機関・福祉作業所の所長さんへ話を聞いてみることにしました。
すると第一声は
「正直大変です。」
すべて付きっきりで行動しなければならないこと
途中でトイレ休憩をこまめにとらなければならないこと
就寝時も、職員が部屋の入口に寝るようにして
障がい者が外に出歩かないようにしなければならないこと...
これらはほんの一部に過ぎませんが、話を聞いて
障がい者と旅行をするということは
健常者側に覚悟がいると身が引き締まりました。
ただ、"普段頑張る障がい者社員をもてなす慰安旅行にする"と決めていたので、
とことんみんなをもてなそうと覚悟を決めたところで、
出発までに山積みの課題を少しずつ崩していかなければなりません。
まず最初に立ちはだかったのは【費用】の問題です。
お金はかけずに旅行をしなければならなかったので、
遠出はできません。
また旅行中も、社員たちがお金を払うということ避けるために
極力かかる費用をすべて旅費に入れ込みたいと考え、
それらすべてを網羅できるのは、1泊2日のバス旅温泉旅行という結論に至りました。
バスが苦手な子はいないか当日まで不安が残ったものの、
佐久間が自ら作った行程表を握りしめ一路、伊豆長岡温泉へ。
当日の集合場所は会社。
集合時間はいつもの出社時間より1時間早かったため
みんなきちんと集合時間に来られるか
土日ダイヤなので平日ダイヤと間違えずに来られるか
いつもより過敏になる健常者の心配をよそに
全員が集合時間に顔をあわせることができました。
出だしは順調!
この時は、これから起こる道中の出来事を想像すらできませんでした。
マイクロバスに乗り、箱根 伊豆長岡温泉へ!
今でこそリベラルの社員旅行は40名以上が乗車できる大型バスですが、
当時はロケバスのような、マイクロバスでした。
知的障がい者7名と健常者4名の11名での社員旅行。
最初の目的地は【富士サファリパーク】です。
(きっとみんな大喜びするだろうな♩)
みんなが楽しんでくれる姿を想像するだけで
旅行を企画して良かったと思えます。
目的地の【富士サファリパーク】へ無事に到着。
マイクロバスのまま、サファリへと進みます。
ふとみんなの顔を見ると、
動物が好きな一部の社員を除き
他の社員は一切興味がない表情。
(えぇえええええええええ?!想像では、大盛り上がりの予定だったのに!)
サファリパークは、一部の社員にだけヒット。
(あっけない・・・そうだ、天気もあまり良くないから仕方ない!)
そのまま一路、次なる目的地小田原へ。
小田原では昼食をとることになっており、
あらかじめ決められた食事が次々と運ばれてきます。
それぞれが思い思いのまま食べ始めると、
ある光景に衝撃を受けます。
テーブルの上に置かれている漬物や梅干しを
すべて平らげてしまった社員...
(この量をひとりで...!?)
衝撃は続きます。
ある社員は食事に一切手をつけません。
以前から好き嫌いが多く偏食がちと聞いてはいたものの
まったく食べようとしません。
(本当に好きなものしか食べないんだ・・・)
好き嫌いが多いとはいえ食事の時間になれば、
何か食べられるものがあるだろうと思っていたその考えが
安易であることを後々に知ることになります。
昼食後は、この旅のイベントのひとつ芦ノ湖からの遊覧船です。
さきほどまで雲で覆われていた空も、すっかり晴れ間が見え始め、
(まるでリベラルの社員旅行の行く末を表しているように感じ(*´ω`*)♩)
少し気持ちが明るくなります。
「みんな、気持ちよく遊覧船に乗って楽しもう!」
ところが、遊覧船の柱にしがみつき全く動けない社員。
想定外でした。
(そうか、遊覧船が苦手な社員もいるのか...。)
すると見かねた上田部長が、柱にしがみつく社員を連れて有料席へ移動。
なんとかそこで座ることができ、
こわばっていた社員の顔も安心した表情を見せています。
【富士サファリパーク】も【芦ノ湖遊覧船】も
みんな大喜びだと思っていたけれど、
みんなのプライベートを知らな過ぎたと反省したまま、宿へと向かいました。
ホテルに到着し、時計を見ると15時。
チェックインを済ませ、みんなで部屋へ向かいます。
荷物を下ろし、さあ温泉旅行の醍醐味!
「よし!みんなでお風呂に行こう!」
元気に呼びかけると、
「僕はいきません」
「浴衣は着ません」
(えぇえええええええええ?!)
なんだか拍子抜けしたまま、数名の社員と共に大浴場へ。
「大浴場を利用する時は、必ず体を洗ってから湯船に入るように」
と説明すると、ずっと体を洗い続けている社員。
さらに大浴場を見回すと、湯船につかった瞬間立ち上がり
そそくさと浴場を後にする社員。
「あがる!」
そう言い放つ社員を急いで追いかけ、
一緒に部屋まで連れていき、また浴場へ戻る健常者。
留守番の上田部長以外の健常者3名は
温泉でのんびりという時間は当然なく、
温泉に入ったのか入っていないのかよくわからないまま
みんなで部屋へ戻り、既にクタクタです。
夕飯はお膳の部屋食。
いかにも温泉に来た雰囲気が味わえる
浴衣での部屋食のはずが、この夕飯の時間が
今も忘れられない苦い思い出の夕飯でした。
まず最初に、このような状況を招いたのは
私たち健常者側が障がい者のみんなのプライベートを
知らな過ぎたのが問題だったということを付け加えさせてください。
彼らが悪いわけではないんです。
健常者の完全なる認識不足が原因でした。
夕食が始まり、次々と仲居さんが食事を運んできます。
するとある社員が仲居さんへ向かって
「私は食べられるものがないのでいらないです」
そう言い放ちました。
「・・・( ゚Д゚)」
仲居さんが部屋をさがったあと、
佐久間が大激怒したのは言うまでもありません。
それだけでは終わりません。
温泉宿での夕食ですから、
普段食べなれない食材が多く並びます。
海老を食べるにしても殻の剥き方がわからず、食べられない社員。
上田部長が自ら障がい者の海老の殻むきです。
(あの上田部長が、海老の殻をむいたのは伝説です。)
上田部長が海老の殻をむいている傍で、
これから火を通して食べる炊き込みご飯を
生米のまま食べようとしている社員( ゚Д゚)
「まだ食べちゃダメー!」
その隣では、まったく箸をつけずにただ無言で座る偏食の社員。
どうにか何か食べられるものはないか促すと
お米とみそ汁を口にし、それ以外は一切食べることはありませんでした。
食べるのが大好きで、みんなの分も喜んで食べる社員。
みんなの個性がキラキラ光った夕飯となりました。
そんな夕食も時間と共に過ぎ、まだお風呂に入っていない社員を
大浴場へ連れていき、これで全員温泉に入ることができました。
<22時消灯>
みんなが眠ったのを確認して、健常者3名でホッと一息。
(上田はみんなと一緒に爆睡(;゚Д゚)大して何もしてないのに!)
「一日長かったね・・・お疲れさま、また温泉にでも入ろうか。」
再び館内温泉に入り、一日の疲れを流し一日目を終えました。
明けて2日目。
ここまでくると、食事の時間が次第に恐怖の時間へと変わってきます。
朝の朝食が恐怖でたまらない健常者。
今日も偏食の社員は、白米とみそ汁しか口にしません。
その横でいつも食べるのが大好きな社員が美味しそうにすべて平らげ、
今日もみんなが元気に過ごせることをただただ願い2日目の観光がスタートします。
旅行2日目の観光地は、浄蓮の滝。
トイレへ行ったまま、その後行方不明になってしまう社員を探し、
とりあえず思い出として浄蓮の滝の前で記念撮影して終了。
そしてこの旅最後の食事となる昼食。
偏食の社員にはここでも食べられるものがなく
佐久間が見かねて、近くで販売していた焼きそばを2パック購入。
購入した焼きそばを渡すと、ペロッと2パック完食!
(そうだよね...お腹空いてたよね、ごめんね...)
自分の気持ちを言葉にすることが苦手な社員だったので
きっと言えなかったのだろう...
そう思うととても申し訳ない気持ちになりました。
来年は好きな物を自分で選べて、好きなだけ食べられる
ビュッフェスタイルのバイキングにしよう!
そう決意した瞬間でした。
食事面での反省点も然り、色々と次年度に向けての課題が残った社員旅行。
帰路につきながら、そう思い返していると急に後ろから
「あああああ!!!」
叫び声が聞こえ、振り返ると、
「上着がない!財布もない!」
そう急に言い出したある社員。
興奮した社員を落ち着かせ話を聞くと、
昼食会場に上着と財布を忘れたと話します。
あぁ...もう今ここは高速道路。
バスはそのまま東京へ。
上着と財布は、無事に見つかり、
昼食場所のご厚意により後日会社へ宅急便で届けられ、
これで人もモノも全員すべてが無事に戻り
はじめての社員旅行の幕が下りました。
はじめてのリベラル社員旅行。
今まで知的障がい者のみんなと約1年半共に仕事をしてきましたが、
まだまだプライベートは知らないことが多いことや
仕事外での障がい特性を知ることもできまたとない学びの機会でした。
(しかしとても疲れました・・・)
反省点や至らない点の多かった社員旅行。
来年はもっとみんなが楽しめる旅行にしよう!
そう心して、溢れ出る疲労感と共に健常者たちも家路につき、
記念すべき思い出深い旅行となりました。
より障がい者(社員のことを)知ることができた社員旅行でした。今まで謎だったプライベートを垣間見ることができましたし、改めて"障がい者と一緒に"ということを考えさせられた2日間でした。
みんなに喜んでもらいたい!みんなの喜ぶ顔がみたい!その一心で行程も決めたものの、蓋を開けてみれば、食事がまともに食べられなかったり、遊覧船が怖かったり、サファリパークが怖かったり。みんなの趣味、興味を何もわかっていなかったなと反省しました。特に食事は猛省でしたね。ほとんど箸を付けられなかった偏食の社員は、2日間まともに食事がとれなかったわけですから、次回からは好きなものを自分たちで選べるバイキングにしよう、そこは譲れないと思いました。
障がい者を引率するということは、容易ではないと聞いてはいましたが、その通りでした。たった7名の障がい者しかいないんですよ。それなのに健常者全員疲弊してましたから。部長はこういう時はマイペースなんです。健常者が4名で7名の障がい者を引率というのは見せかけだけで、健常者4名のうち1名(部長)は、戦力外です。(笑)でも唯一の手柄は、有料席へ障がい者を案内できたことと、海老の殻をむいて食べさせてあげたことですね!部長は、日頃会社のために頑張ってくれていたので夜すぐに眠ってしまったのも、相当日頃の疲れが溜まっていたのだと思います。ということで、部長に関しては、翌年からは期待しないことにしました。(笑)部長は、来てくれればそれだけで嬉しいので十分です!
2020年は社員旅行が開催できませんでしたが、またみんなで旅行できる日がきてほしいなと思います。もう自由時間まで設けられるほど、みんな成長しました。初年度の社員旅行も今では笑い話です。