Riberal Days

crying
2021/03/11
第7回 現場のリアル
はじめての退職者
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言葉選びの難しさ

知的障がい者は職場定着が難しいと聞いていたので、
どうしたら職場定着が図れるかを考えた結果、
社員と距離を縮めて、何でも相談できるような
居心地のよい環境をつくることを心がけました。

昼休憩の食事もいつもみんなで一緒にとり、
いつでも目をかけられて、
いつでもみんなを見られるようにして、
上田と佐久間はいつもみんなと同じ場所で過ごすようにしていました。

知的障がい者社員の成長も見られ、
少しずつ前へ進んでいると感じていた矢先に
ある社員から、朝一本の電話が入りました。

「体調が悪いので休みます」

今まで体調不良で休む際は家族から必ず連絡があったのに、
本人からの連絡ははじめて。

しかし、一瞬不安が頭をよぎってものの

「ゆっくり休んで」

と返答し、その日一日が終わりました。
すると翌日、また本人から会社を休む連絡が入りました。
「休む時は、家族から連絡をいれるように」と
再び注意するものの、家族からの連絡もなく、
ある社員から、

「お祭りで見かけたよ!」

と報告が入りました。

お祭りには元気に出ているのに、
仕事には体調不良を理由に欠勤していることが判明。

すぐに会社から支援機関へ連絡をとり、
本人の様子をヒアリングしてもらうと、
本人から思いがけない一言...

「佐久間さんに『ゆっくり休んで』と言われたから」

そうか...かける言葉は難しい。言葉のかけ方は難しい。
そう感じた出来事でした。

理解力も比較的高くできることが多いと感じていた社員でしたが、
以前から社会人としてのマナー(清潔感などの身だしなみ)は
まだ身についていないと感じることが多々あった知的障がい者社員。

その後も無断欠勤を含め会社へ来ない日が続き、
上田も本人の家へ迎えに行ったり、行方不明になった本人を捜したり、
支援機関への協力を依頼したり、家族とも話をしたり...
その当時できることはすべてやったと思っていましたが
今思うとまだまだ足りないところばかり。

知的障がい者を雇用し育成する本当の意味での準備がまだまだできていませんでした。
それは、障がい者に【障がい者】という薄いフィルターをかけてしまい
障がい者を障がい者として見ないと決めていたにも関わらず
結果としては、それを実行できていなかったのです。

その後も本人の行動に改善は見られず、
家族から「もうこれ以上会社に迷惑をかけられない」と
退職の意向が伝えられました。

この退職を機に、
「もっと障がい者に踏み込んでいこう」
「障がい者と本当の意味で向き合うのは、もっと覚悟しなければならない」
そう心に決めました。
【障がい者だから】と思わずに接していたのは"つもり"に過ぎず、
心のどこかで
「かわいそう、仕方ない」という気持ちがありました。

ゼロからの障がい者雇用。
何が正解かがわからず、自信をもてていなかったのかもしれない...
気づかされることがたくさんありました。

はじめての大きな谷。
最初に味わった大きな挫折でした。

たらればになってしまうけれど、
もっと社員と向き合っていれば
もっと社員の怠慢な部分に目を向けていれば
もっと社員の背景に目を向けていれば
ただただ後悔ばかりが募りました。

二度と同じ経験をしないために、
「障がい者だから」聞かない聞けないではなく
何でも腹を割って話せるくらいにならなければならない。

もう二度と退職者を出さないために...

リベラル 佐久間

今振り返っても、退職した社員に申し訳ない気持ちは変わりません。
今だったらきっと退職させていないと思います。退職させずに済んだと思います。それはその社員のことをよく知ろうと思うし、その社員の背景を知り、その社員にとってのベストを追求できる自信があるので。
面接の時に、フィーリングだけで採用してしまって、全部聞き出せていなかったことが問題です。もちろんフィーリングも大切なんです。その気持ちは今も同じです。ただ今だったら、生い立ちから家族構成、性格、趣味、苦手なことや得意なことまですべて聞くと思います。聞いた上で、どのように接することがベストなのかをこちら側で判断できると思うのです。それが当時は何も知らなかったので、完全に経験不足です。
「雇用した以上責任をもつ」退職者を出した時に「二度と退職者は出さない」と猛省しています。今であれば決してこのようなことは起こしません。こうなる前に対応をとっていますから。今退職者がここ5年ほどいないのがその証拠です。
もちろん今もまったく何も問題が起こらないわけではなく、問題を未然に防ぐよう常にアンテナを立てて、日々障がい者と向き合っています。

Special Contents 現場のリアル 合言葉は「のんき 根気 元気」  ~戦力として活躍する障がい者たち~